2017年6月21日、東京・江戸川区の焼肉店で6月12日の夜に食事をした中学生ら66人のうちの32人が、発熱や腹痛などの食中毒症状を訴えていたことが判明し、保健所の調査で6人の便から食中毒菌「カンピロバクター」が検出されたと発表されました。
「焼き鳥」「鶏レバー」「豚の内臓」などを食べていたそうです。
また2017年6月12日にも、八王子市内の居酒屋で先月の27日に「鳥刺し」などを食べた2グループの男女30人が下痢や発熱、腹痛などの症状を訴えていたことが明らかになり、患者から「カンピロバクター」が検出されたことから提供された食事が原因の食中毒であると断定しました。
「ノロウィルス」による食中毒については過去記事、「トイレットペーパーの三角折りとノロウィルスの脅威」 をご覧頂くとして、「カンピロバクター」は、厚生労働省の平成27年度の統計では「ノロウイルス」の次に報告患者数が多かった食中毒の原因菌です。
「カンピロバクター症」とは?
カンピロバクター症(campylobacteriosis)とは、家畜や家禽(ニワトリ、ウズラ、七面鳥など鳥類の家畜)、ペット、野生動物などの腸管や生殖器に感染する微生物「カンピロバクター属菌」による感染症です。
上記の通り、厚生労働省の平成27年度の統計では「ノロウイルス」に次いで食中毒の報告患者数が多く、発展途上国においては「カンピロバクター」に冒された動物たちにより汚染された河川を利用することで感染、もはやありふれた病気となっています。
「カンピロバクター症」の症状
症状は下痢・腹痛・発熱が主であり、嘔吐・頭痛・悪寒・倦怠感などを伴うこともあります。
潜伏期間は約1~7日で、たいていは1週間ほどで治癒します。
しかしながら「カンピロバクター」による腸炎が完治した数週間後に、「ギラン・バレー症候群」(手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難など)を発症する場合があるため、腸炎症状が治まった後にも注意が必要となります。
死亡例や重篤例は稀で、厚生労働省によると少なくとも1998年(平成10年)以降、国内でのヒトの死亡例の報告はないとのことですが、例によって、乳幼児や高齢者、抵抗力の弱い人などは重症化する危険性はあります。
「カンピロバクター」の感染経路
集団食中毒の発生で原因となった食品が判明した事例をみると肉類が最も多く、その大半が「鶏肉」及びその「内臓肉」です。
厚生労働省の「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」によると、2015年(平成27年)に国内で発生した「カンピロバクター」による食中毒のうち、原因食品として「鶏肉」が疑われるもの(鶏レバー・ささみなどの刺身、鶏肉のタタキ、鶏わさなどの半生製品、加熱不足の調理品など)が92件認められているとのこと。
しかしながら、集団食中毒の発生の原因となる菌は、少量の数(100個程度)でも感染が成立すること、通常大気中では死滅しやすいこと、潜伏期間が比較的長いこと、すでに原因となった食品が残されていないこと、などの理由から感染源の特定は極めて困難で、原因が特定されない場合も多いそうです。
「カンピロバクター」の特徴
・ニンゲンや動物の腸管内でしか増殖しない
・乾燥に弱いため常温下では長く生きられない(だからタマゴは大丈夫)
・通常の加熱調理で死滅する
・100個程度の少ない個数でも感染する
・冷凍でも死滅しない
2006年のEFSA(European Food Safety Authority = 欧州食品安全機関)の報告によると、「鶏肉」の80%が汚染されているそうです。
汚染されても、臭いや味に変化はありません。
何より「加熱が必要」ということです。
たった一滴の「生の鶏肉」の肉汁であっても危険ですからね‥?
BBQ、お気を付けあれ‥。
「アニサキス症」とは?
「アニサキス症」とは、回虫目アニサキス科アニサキス属に属する寄生虫「アニサキス(Anisakis)」によって引き起こされる寄生虫症です。
「アニサキス症」をもたらす原因寄生虫の「アニサキス」は、サバ、サケ、アジ、イワシ、ニシン、イカ、タラ、サンマ、ホッケ、タラ、マス、イルカ、クジラなどの海水魚の内臓に寄生しています。
魚介類が死亡すると「アニサキス」の幼虫は、内臓から筋肉に移動します。
前述の「カンピロバクター」は長さ0.5〜5μm、幅0.2〜0.4µm(マイクロメートル) = 0.001 ミリメートル)の「菌」であるので当然見えませんが、「アニサキス」は体長が11~37mm、幅は0.5~1mmの「寄生虫」なので、視認できます。
「カンピロバクター」(画像出典 : 国立感染症研究所)
「アニサキス」(画像出典 : Parasite of the Day )
「アニサキス症」の症状
「アニサキス症」は大きく「胃アニサキス症」と「腸アニサキス症」に分けられます。
「胃アニサキス症」は、「アニサキス」の幼虫が胃の粘膜へ入り込んで発症するもので、食後数時間のうちに、激しいみぞおちあたりの腹痛・嘔吐などの症状がみられます。
腹痛の原因は「アニサキス」が胃壁に入り込むことによるものではなく、即時型のアレルギー症状によるものと考えられています。
嘔吐の吐瀉物は胃液のみということが多く、下痢もほとんど起こさないことが一般的な食中毒と異なっている特徴です。
「腸アニサキス症」は、「アニサキス」の幼虫が腸に侵入してしまうことで発症し、症状がでるまでに時間が掛かります。半日以上から長い場合には1週間くらい経ってから、激しいおへそのあたりの腹痛や嘔吐などの腹膜炎症状があらわれます。
「腸アニサキス症」に罹ると、「腸重積」(小腸が大腸の中に入り込んで「腸閉塞」(腸で食べ物や消化液などが詰まる)を発症する病気)や「腸穿孔」(腸に穴があく病気)を併発する可能性があるので注意が必要となります。
その他、「アニサキスアレルギー」もあります。
国立感染症研究所によると、「アニサキスアレルギー」による代表的な疾患は、魚類摂取後, 数時間~10数時間に悪心・嘔吐・強烈な腹痛などの症状に加えての蕁麻疹(じんましん)。
“サバを食べると蕁麻疹が出る” = “サバアレルギー”。
実は「アニサキスアレルギー」だった。
「アレルギー」となれば、心配しなければならないのは「アナフィラキシー」。
呼吸不全・意識消失・血圧降下という重篤な症状があらわれるものなので要注意です。
(「アナフィラキシー」の詳細については以下の過去記事をご覧下さい。
殺人ダニ「コナヒョウヒダニ」「マダニ」とシンドローム症候群とイスラム教
「アニサキス」の感染経路
(画像出典 : 同友会メディカルニュース)
上記の画像を見て頂ければ一目瞭然、「アニサキス」の幼虫を持った宿主である海水魚を生、もしくは半生の状態で摂取したことによる、経口感染です。
「終宿主」が「海産哺乳類」とあります。
つまり、「アニサキス」はイルカ・クジラ・アザラシといった海洋性の哺乳類の体内でしか「成虫」にはなれないということ。
なので、ニンゲンの体内においてはあくまでも「幼虫」であり、よって「体内で産卵して増殖」というようなことはありません。
「アニサキス」の特徴
主に鶏肉を汚染している「カンピロバクター」とは違い、「アニサキス」は冷凍で死滅します。
ただし、厚生労働省の情報によると、「-20℃で24時間以上冷凍すると感染性が失われます」とのこと。
調べてみると、内閣府の電気冷蔵庫のJIS改正についてに、日本工業規格(JIS規格)では「冷蔵室は4℃、冷凍室は -18℃」とあります。
冷蔵庫の能力、全然足りてないじゃん‥。
個人として、どうやって「アニサキス」を冷凍で死滅させろっての‥??
・ニンゲンの体内では増殖しない
・宿主(魚介類)の死後、内臓から筋肉に移動する
・通常の加熱調理で死滅する(60℃で1分、70℃以上で瞬時に)
・一般的な料理で使用する程度の食酢、塩漬け、醤油、わさび等は無意味
・可能性からすると、たった1匹でも感染する
・冷凍によって死滅する
・目視での確認・除去が可能
その昔、とある食品工場で水産物の加工・盛りつけの仕事をしていた時の話。
原材料のタラに付着していた異常な数の「アニサキス」‥。
その個数が半端なくて‥作業の一環として「目視にて除去」という工程があったほどで‥。
しかしまあ、これは恐らく、「業務用の冷蔵庫」において「-20℃」以下の環境におかれたことによる単なる「アニサキス」の死体であり、健康被害としては皆無なんでしょうけど‥。
個人的にはこの体験以降、居酒屋での定番のタラは食べられなくなりました。
(実際に焼いて食してみると、食感は「ゴム」だそうです)
まとめ。
鶏肉の「カンピロバクター」、魚肉の「アニサキス」、いずれも充分な加熱により死滅します。
「生」ってのは何かにつけて‥危険ですね‥。
くわばら‥くわばら‥。
ちなみに、この「くわばら」というのは、「雷が落ちるのを防ぐために唱えるおまじない」でして‥という記事は別記事で投稿したいと思っています。
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