英語の使用は禁止!! 戦時中の「敵性語」を調べてみた

tekisei

皆さん「両さん」はご存じですよね。
マンガ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」、「こち亀」です。
当時、私たちは「両さん」と呼んでいました。

その第16巻のサブタイトルにもなっている「大和魂保存会!?の巻」にアイスキャンデー屋の「日本語おじさん」なるキャラが登場します。

「サンキュー」という子供に対して「”ありがとう”といいなさい」と注意。

「ゲームセンターにインベーダーやりにいこう」に対しては「”遊ぎ場”に”侵略者遊び”をしにいこうといいなさい」と。

「アイスクリームないの」には「”半粘り状冷凍菓子”は売り切れたけど、”棒付き氷菓子”ならあるよ」。

これを見た両さんが「ユニークだな」と食いつくという流れ。

“美しい日本語の普及活動を続けている”という「日本語おじさん」の、外国語から日本語への言い換えを一覧にしてみました。

英語日本語
サンキューありがとう
ゲームセンター遊技場
インベーダー(ゲーム)侵略者遊び
アイスクリーム半粘り状冷凍菓子
アイスキャンデー棒付き氷菓子
ミルク味牛乳味
パイン味南国産果実味
サービス商売別奉仕
アイスコーヒー冷し南米産豆出し汁
テレビ箱形電波受像器
ライター自動発火装置
ポリシー保留神(ぽるしん)
ロック西洋狂気音楽
ザ・ビートルズ兜虫4人楽団
A Hard Day’s Night忙しい昼と夜
ザ・ローリング・ストーンズ回る石楽団
Honky Tonk Women酒場の女
アース・ウィンド・アンド・ファイアー蚊取り(線香)風と火楽団
レコードプレーヤー&スピーカー左右両別れ音楽再生装置
レコードプレーヤー円盤自動回転装置
TOSHIBA製品東京芝浦電気製品
オーディオシステム音声大小音色自由自在装置
National (現:Panasonic)松下電器産業
スピーカー低高音音出し箱
JBL英語綴りの10番目2番目12番目
エレクトリックギター西洋電気三味線
コーラ米国産味付炭酸水
ビール泡立ち大麦水

いやぁ‥まったく。やはり天才ですな、「山止たつひこ」氏は。

「敵性語」とは?

敵性語 (てきせいご) ‥ 敵対国や交戦国で一般に使用されている言語のこと。

「看板から米英色を抹殺しよう」とあるTOPの画像、 1943年(昭和18年)2月3日付『写真週報』第257号 のものです。

記事内容は以下の通り。

これは決してニューヨークやロンドンの街頭ではない。日本の街頭だ。しかもわれわれは、いま米英と戦っている。それにどうだろう、わが日本の都会にこの横文字看板が氾濫しているとは‥‥かかる米英媚態の看板は断然やめようではないか

それではどういう看板が米英媚態のものであるかというと、大体ここに取り上げた看板のように、この商店は一体なにを商っているのか、その肝心なところが横文字で書いてあったり、店名に敵米英の地名や人名を用いてあるものである。これは誰が考えても日本人をお客としている日本の店のとるべきことではなく、まして敵国の地名や人名を書くにいたっては媚態以外の何物でもないであろう。

日本での敵性語排斥運動は、1937年の日中戦争(支那事変)開戦により敵性国となったアメリカやイギリスとの対立に始まります。

英語を「軽佻浮薄」であり「敵性語」にあたるとして排斥が進み、完全に敵国となった1941年の太平洋戦争(大東亜戦争)突入後にはこの運動はより顕著なものとなりました。

軽佻浮薄(けいちょうふはく) : 考えや行動などが軽はずみで、浮ついているさま。

ただし、敵性語排斥は「マスゴミ」・「内務省」・「文部省」・「大政翼賛会」による自主的な規制運動であって法律等で禁止されたものではないので、違反に対しても法的根拠はありません。

なので取り締まりの厳しい一面は見られるものの、実際はゆるゆるだったとも? (後述)

例えば、松下電器は「ナショナル」、早川電機工業は「シャープ」のブランド名を冠した製品を、戦時中にても発売しています。

あくまでも「敵性語」というものは、対米英戦争に向かう中で高まっていくナショナリズムに後押しされ、その圧力を受けた一般民間人や民間団体による自己規制として、然発生的に生まれた戦意高揚としての「自粛」という社会運動にすぎない、ということです。

「敵性語」一覧

野球その他
スポーツ
芸能界学校名社名商品名・
ブランド名
タバコ飲食物
雑誌地名放送交通動物・植物楽器・
音楽
乗り物その他
敵性語愛国語
野球
プレイボール始め
ストライクよし1本・正球
ストライク ツーよし2本
ストライク スリー・ユーアーアウトよし3本・それまで
ボール(だめ)1つ・無為・悪球
ツーボール(だめ)2つ
ファウルだめ・圏外・もとえ
ファウルチップ擦打
アウトひけ・圏外・無為・倒退
セーフよし・安全・占塁
ヒット正打
バント軽打
スクイズ疑投打生還
スチールスクイズ盗塁・奪走塁
ボーク疑投
ホームラン本塁打
バッテリー対打機関
タイム停止
フェアグラウンド正打区域
ファウルグラウンド圏外区域
ホームチーム迎戦組
ビジターチーム往戦組
リーグ戦連盟戦
監督教士
選手戦士
コーチ助令
マネージャー秘書
大阪タイガース阪神軍
スタルヒン(巨人のロシア人投手)須田 博(すた ひろし)
その他スポーツ  「敵性語」一覧へ
ラグビー闘球(とうきゅう)
ホッケー杖球(じょうきゅう)
バレーボール排球(はいきゅう)
ゴルフ打球(だきゅう)・芝球(しきゅう)
パー基準数
ホールインワン
キャディ球童
ハンドボール送球(そうきゅう)
ビリヤード撞球(どうきゅう)
クロール速泳(そくえい)
米式蹴球(アメリカンフットボール)鎧球(がいきゅう)
スキー雪滑
スケート氷滑(ひょうかつ)
芸能界  「敵性語」一覧へ
ディック・ミネ (歌手)三根 耕一
ミス・コロンビア (歌手)松原操
リーガル千太・万吉 (漫才師)柳家千太・万吉
秋田Aスケ・Bスケ (漫才師)徳山英助・美助
ミスワカナ (漫才師)玉松ワカナ
あきれたぼういず新興快速舞隊
朝吹英一とカルア (ハワイアン)南海楽友
ビクター合唱団勝鬨
コロンビア合唱団日畜合唱団
シンフォニック・コーラス交響合唱団
モアナ・グリークラブ (ハワイアン)灰田兄弟と岡の楽団
学校名  「敵性語」一覧へ
ウヰルミナ女学院大阪女学院高等女学校
フェリス和英女学校横浜山手女学院
英語教授研究所語学教育研究所
静岡英和女学校静陵高等女学校
東洋英和女学校東洋永和女学校
パルモア女子英学院啓明女学院
プール学院高等女学校聖泉高等女学校
山梨英和女学校山梨栄和女学校
社名  「敵性語」一覧へ
ジャパンタイムズニッポンタイムズ
欧文社旺文社
後楽園スタヂアム後楽園運動場
ワシントン靴店東條靴店
ブリッヂストンタイヤ日本タイヤ
ブルドック食品三澤工業
キングレコード富士音盤
シチズン時計大日本時計
コロムビアレコードニッチク(日蓄工業)
 大同メタル工業大同軸受工業
日本ビクター日本音響株式会社
フレーベル館日本保育館
ポリドールレコード大東亜蓄音機
商品名・ブランド名  「敵性語」一覧へ
リプトン大東亜
エンパイヤ自動車帝国自動車
富士ミネラルウォーター富士鉱泉
バスクリン<製造中止>
トンボ鉛筆「2B」「B」「HB」「H」「2H」「二軟」「一軟」「中庸」「一硬」「二硬」
タバコ  「敵性語」一覧へ
ゴールデンバット金鵄(きんし)
チェリー桜(さくら)
カメリア椿(つばき)
飲食物  「敵性語」一覧へ
サイダー噴出水(ふんしゅっすい)
フライ洋天(ようてん)
キャラメル軍粮精(ぐんろうせい)
コロッケ油揚げ肉饅頭(あぶらあげにくまんじゅう)
カレーライス辛味入汁掛飯(からみいりしるかけめし)
雑誌  「敵性語」一覧へ
オール読物文藝読物
キング富士
サンデー毎日週刊毎日
エコノミスト経済毎日
ユーモアクラブ明朗
経済マガジン経済ニッポン
キンダーブックミクニノコドモ
地名  「敵性語」一覧へ
日本アルプス中部山岳
パールハーバー真珠湾
シンガポール昭南島(しょうなんとう)
中華民国支那
放送  「敵性語」一覧へ
アナウンサー放送員
マイクロホン送話器(そうわき)
ニュース報道
レコード音盤(おんばん)
交通  「敵性語」一覧へ
プラットフォーム乗車廊
ロータリー円交路
バック背背(はいはい)
オーライ発車
ストップ停止
動物・植物  「敵性語」一覧へ
カンガルー袋鼠(ふくろねずみ)
ライオン獅子
コスモス秋桜(あきざくら)
シクラメン篝火草(かがりびそう)・豚の饅頭
チューリップ鬱金香(うこんこう)
ヒヤシンス風信子(ひやしんす/ふうしんす)
プラタナス鈴懸樹(ずかけのき)
カーネーション和蘭石竹(おらんだせきちく)
サルビア緋衣草(ひごろもそう)
ダリア天竺牡丹(てんじくぼたん)
デイジー雛菊(ひなぎく)
楽器・音楽  「敵性語」一覧へ
サクソフォーン 金属製先曲がり音響出し機(きんぞくせいさきまがりおんきょうだしき)
トロンボーン抜き差し曲がり金真鍮喇叭(ぬきさしまがりがねしんちゅうらっぱ)
ヴァイオリン瓢箪型西洋三味線・提琴(ていきん)
ビオラ中提琴
コントラバス妖怪的四弦・大提琴
ピアノ鋼琴・洋琴
オルガン風琴
アコーディオン手風琴
クラリネット竪笛
フルート洋笛
トランペット喇叭
ホルン角笛
ティンパニ半円鍋型ぎゅう縛り高低自在太鼓
トライアングル三角鉄
タンバリン鈴鼓
ギター六絃琴
エレクトーン電子琴
ハープ竪琴
ハーモニカ口風琴
オカリナ鳩琴
チャイム鐘琴
オルゴール自鳴琴
ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドハ・ニ・ホ・ヘ・ト・イ・ロ・ハ
乗り物  「敵性語」一覧へ
ハンドル走行転把(そうこうてんば)
アクセル噴射践板(ふんしゃせんばん)
アクセルペダル加速践板(かそくせんばん)
エンジン発動機
チェンジレバー変速槓棹(へんそくこうかん)
クラッチ剪断器(せんだんき)・連軸器(れんじくき)
シリンダー気筒
ピストン吸鍔(すいつば・きゅうがく)
ガソリン揮発油(きはつゆ)
オイル潤滑油(じゅんかつゆ)
キャブレター気化器
ヘッドライト前照灯
キャタピラ無限軌道
スプリング発条(はつじょう)
ワイパー前面硝子掃除機
コンデンサ蓄電器
バッテリー蓄電池
ゴンドラ搬器(はんき)
ロープウェイ策道(さくどう)
トラック自動貨車
その他  「敵性語」一覧へ
パーマネント電髪(でんぱつ)
デート逢い引き
キス接吻(せっぷん)・口づけ
ハンドバッグ皆入袋
酸素マスク与圧面(よあつめん)
スクラップブックオサイク
ドライバー柄付き螺回し(えつきらまわし)
ハンカチ手巾(てきん)
テーブル卓子(たくし)
パン麪包(めんぽう)
フォーク肉刺(にくさし)
スコップ円匙(えんぴ)
テント天幕
キャンプ露営
マッチ燐寸
ライター点火器
コンパス文回し(ぶんまわし)
レコード音盤
レーダー電波探信儀
ミサイル噴進弾
スイッチ開閉器
ステンレス不錆(せい)鋼・耐錆鋼・不銹(しゅう)鋼
スリッパ上靴(じょうか)
サーチライト探照灯
ズボン袴(こ)
ブラウン管陰極線管(いんきょくせんかん)
ソナー音波探知機
トランクス猿股
ファスナーチャック
アクリルガラス有機硝子
アンテナ空中線
チェーンストア連鎖店
ホステス女給(じょきゅう)

実際に「敵性語」変換の「愛国語」が用いられていたのか?

個人的には、高校時代に始めて試みたパーマに失敗した際に「電髪」のワード使っておどけてみせたイヤな思い出が‥。

「接吻」なんかは普段の会話で敢えて使ったりもしますが。

何よりも「キャタピラ→無限軌道」が大のお気に入りです。
名付けた人、いいセンスしてる。

しかし本当に当時、こんなメンドクサイ、実際のところは「カレーライス→辛味入汁掛飯(からみいりしるかけめし)」みたいな笑える言い換えを一般民衆が用いていたのでしょうか?

その辺りを調べていたところ、興味深いネタが。

「ゼロ戦」。

ゼロは「0」=「zero」。英語です。

日本語では「0」=「れい」ですよね。漢字では「零」。

「ゼロ戦」の正式名称は「零式艦上戦闘機(れいしきかんじょうせんとうき)」。

略して零戦」です。

zerosen

零戦」は「艦上戦闘機」なので、海軍所属です。

その海軍が手本にしたのがイギリスであったため、日常用語に敵性語である英語が多数用いられていたことで言葉の転換は陸軍ほどには行なわれず、そもそも海軍は海外との交流もあり「ゼロ」を含めた英語、横文字を明らかな「敵性語」と考えていませんでした。

というか、実際問題使わなければ不便、というのがその理由だったようですが。
(確かに「ドライバーとって」というのを「柄付き螺回しを」などとは言ってられませんよね。ましてや「命が掛かった場面」などにおいては)

これに対して陸軍ですが、戦時中に陸軍省が一般向けに発行した書籍においても普通にカタカナ英語が使用されています。

やはり、敵性語排斥というのは国家や軍が指示・命令したものではなく、民間レベルの「自主規制運動」でした。

よって日常生活レベルでも、一般大衆においては公での使用は控えるくらいだったようです。(個人事業主の店の看板・広告・ポスターには使えないみたいな?)

少なくとも、敵性語を迂闊に口にしたからといって、官憲に「歯を食いしばれ!」などと非国民扱いされて鉄拳制裁を受けることはなかったようです。(史実では、「当時、中学三年生だったある少年は、米国民謡「ミネトンカの湖畔」を学校の休憩時間に口ずさんだところを級友に密告され、恐怖の配属将校に呼び出された挙句、「敵性歌曲を歌う売国奴」と罵声を浴びせられて、竹刀でメッタ打ちの刑に‥とも。)

こちらの書籍、面白いので是非とも読んで頂きたい。

英語を禁止せよ―知られざる戦時下の日本とアメリカ


現代社会での英語禁止となれば「タモリ・たけし・さんまBIG3 世紀のゴルフマッチ」ですな。
司会・進行はあの逸見さんだった。

以降、代表作として(?)英語禁止ボウリング」なんてものもあったけれど、上記にはまったく敵わない。


現在、敵性語として「パソコン」愛国語に変換するとどうなるのか?

「パソコン = パーソナルコンピューター = 個人用機械言語変換機、個人用電子計算機」だそうな。

「www」は「world wide web = 世界広域蜘蛛の巣」。

「メールサーバ」が「mail server = 郵便奉仕」。

いずれにせよ、言葉狩りは狂気であるということですね。

コメント

  1. 蒲焼さん太郎 より:

    マスコミがマスゴミと打ち間違ってますよ

  2. くみ より:

    そういうことだったんですね。実は前から不思議だったんですよ。
    日本の真珠湾を攻撃したときの大本営発表のラジオ放送です。
    youtubeにもありますので一回、聞いてみてください。
    アナウンサーらしき人がこう言うんです。
    「臨時ニュースを申し上げます」
    え? 「ニュース」って英語じゃん? 言って大丈夫なのって。

    ようやくこの記事で解せましたよ。ありがとうございます。。

    • wolf より:

      返信‥遅れてすみません‥(^^;
      “そういうことだった” というのは <敵性語排斥というのは国家や軍が指示・命令したものではなく、民間レベルの「自主規制運動」だった>の部分で宜しいでしょうか‥?|| ω・`) チラッ..
      なんにせよ、お役に立てて光栄です。(*^∇^)v

      • くみ より:

        返信、ありがとうございます。

        私の“そういうことだった” という意味はwolfさんの解釈で問題ありません。
        敵性語排斥というのは国家や軍が指示・命令したものではないなら、大本営発表で英語を使うのは問題ないですからね。

        しかし、当時のラジオで平然と「大本営発表が英語を使う」ときがあるのに、民間レベルで「自主規制運動」が起きるのは、2022年の私の感覚ではなんとも矛盾に満ちた変な気分ですね。でも、その辺りの感覚はもう知る由もないは無いのかもしれませんね