【送り狼】
おくり‐おおかみ〔‐おほかみ〕【送り×狼】
1 親切を装って女性を送っていき、途中ですきがあれば乱暴を働こうとする危険な男。
2 山中などで、人のあとをつけてきて、すきをみて害を加えると考えられていた狼。コトバンク デジタル大辞泉の解説より
1はともかく、2について。
これは昔の里山で実際にあった話のようです。
「いいつたえ」としても残っています。
『また、切窓峠には「送り狼」と言ってなあ道を歩いていると、山の上の方で「ガサガサガサガサ」と狼がついて来る(正体不明)。立ち止まると、山の狼も立ち止まる。また歩き出すと「ガサガサ」とついてくる。「人間がこけると狼が飛びつくので絶対こけたらいけんぞ。」と言われたもんじゃ。これを昔の人は、「送り狼」といった。
今の自動車では、とても狼も送れまいなあ。』((069)山崎町 切窓峠で狐につままれた話と送り狼(おおかみ)
より抜粋 )
(【追記:2020年7月18日】上記のリンク先、
<http://shiso-sns.jp/bbs/bbs_list.php?root_key=5406&bbs_id=56>
は削除された模様。)
“人が歩けば後を付け、立ち止まれば相手も立ち止まる”という部分、これはまさにオオカミの習性なので相手は確かにオオカミだったと思われますが、”人間がこけると狼が飛びつくので”という部分についてはいただけません。
実はこのオオカミ、偵察のために群れから派遣されたオオカミであって、決して人間をエサとして捉え、襲いかかるタイミングを探りつつ付け回しているのではないのです。
オオカミは縄張り意識が強い動物で、加えて人間を尾行する習性、もともと好奇心が強いという性格を背景に、自分たちのテリトリーに入ってきた人物がその区域外に出るまでは、もしくはその人が里に入るまではずっーとその行動を監視しを続け、それを見届けることで偵察の任務を終えたオオカミは、再び仲間たちが待つ山中へ帰還・・。
「いいつたえ」や文献には襲われたという記述もあるようですが、それはオオカミではなくて山犬(飼い犬が山に入って野生化したもの)というのがどうやら正しいようです。
そもそも群れで行動しているオオカミが単独で攻撃を仕掛けるというのはあり得ないことだと思われます。(ただ唯一例外があって、狂犬病に冒されたオオカミについてはこの限りではないとされています)
基本、《オオカミは、人間を襲わない》のです。
現在の犬と人間の関係と同じでした。
まあ昔の真夜中の里山、言うまでもなく外灯もない真っ暗闇の夜道で、姿の見えないものにゴソゴソとずっと付け回されては、それはそれは不気味でしょう。なので気の毒なことに妖怪扱いにもされています。
ですが良い解釈の記述もちゃんと残っていて、オオカミが付いてきてくれることで、その他のクマやらイノシシといった動物が寄りつかず、安心して里に戻れるのだと。
田畑を荒らす動物をエサとして捕らえてくれる、ありがたい存在であったと。
これらは日本での話であって、西洋では少々事情が違ってきます。
肉食である西洋社会の農民にとってオオカミは、逆に家畜を襲う害獣でした。
なので、グリム童話やイソップ物語、西洋ではオオカミはあくまでも悪役です。
その代表がオオカミ男。
「赤ずきんちゃん」でもオオカミはひどい目に遭います。
日本では『おおかみこどもの雨と雪』やら『もののけ姫』(扱いは山犬ですが)、なにやらどこか、もの悲しさを感じてしまいます。
オオカミが人間の後を付けまわす理由として、塩分補給説もあります。
人が小便をしたところから塩分を得るために付け回してるのだというものです。
現に、野生の草食動物はどうやって塩分を摂っているのかというと、塩分の含まれた土を探して食べたり、岩を舐めたりします。手塚先生のマンガ(シュマリだったかな?)にもシカたちが岩場に塩を舐めに集まってくるシーンが描かれています。
その他、仲間や自分の尿などからの塩分補給、とにかく塩分の摂取ためにあらゆる方法を利用します。
砂漠で遭難した際には尿を飲め、サバイバルの基本そのものを本能的に実践していますね。
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