1992年のTVスペシャルシリーズ「ルパン三世 ロシアより愛をこめて」。
旧ロシア帝国を支配していたロマノフ王朝の500トンもの金塊を巡り、ルパンファミリーと怪僧ラスプーチンの孫にあたるラスプートンとの金塊争奪戦が展開する。
1997年製作のアニメ映画「アナスタシア」。
あるパーティーに邪悪な魔法使いラスプーチンが現れ、彼の呪いによってロシア革命が起こる。
1999年、劇場版 名探偵コナン「世紀末の魔術師」にもラスプーチンの子孫が登場。
アニメ以外でも今後も様々な場面で見聞きするであろうラスプーチン、ご紹介します。
ラスプーチンとは?
出生~国政干渉まで
本名は、グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチン (1869~1916)。
帝政ロシア末期、ロマノフ王朝時代の祈祷僧、神秘主義的修道士。
農民の第5子として生まれました。
20歳頃までは普通に生活しており、1887年に結婚もしました。
が、1892年に突如「生神女マリア(ロシア正教会での聖母マリア)から啓示を受けた」と言い残して村を後にし、巡礼の旅に出ます。
(ラスプーチンと子供たち。Wikipedia)
その後、彼は熱心な修行僧となったものの、十分な教育を受けていなかったために独自の解釈で聖書を理解することしかできず、しかしその懸命な姿勢が皆に好感を与え、司教や上流階級の人々の注目を集める存在となりました。
サンクトペテルブルク(ロシア帝国の首都。ソビエト時代のレニングラード)に出た彼は人々に病気の治療を施して信者を増やし「神の人・預言者・聖僧」と称されます。
もともと少年時代から馬泥棒の名前を言い当てたり、動物の傷に手をかざすだけで治癒する等の特殊能力があって、巡礼の結果、ヒーリングと透視、予知能力などの能力を開花させたと言われています。
当時のロシア貴族の間では神秘主義が広く浸透しており、これに傾倒していたロシア大公妃たちからも寵愛を受けるようになって、ついには彼女らの紹介でロシア皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后に謁見することになりました。
当時の時勢
その頃、ロシア皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后の長男である皇太子アレクセイが血友病に罹っていると診断されていました。
血友病とは、生まれつき血液を固めるタンパク質が少ないため出血が止まりにくくなる病気で、代表的な遺伝疾患。基本的に発症するのは男性のみです。(女性の患者は全体の1%未満)
ちなみに現代の医学をもってしても、血友病を完治することはできません。
当時、各国の王家にとっては後継者の候補として男性がどうしても必要であったため、皇太子が罹ったこの病気に皇帝夫妻は頭を悩ませていました。
皇帝ニコライ2世はラスプーチンをエカテリーナ宮殿に呼び出してアレクセイ皇太子の血友病の治癒に当たらせました。彼が祈祷を捧げると、翌日、アレクセイの出血が止まって症状が改善したことで、さらに信頼を深めていくこととなります。
現代ではラスプーチンの治療法は「プラシーボ効果・催眠療法」もしくは「アスピリンの投与による鎮痛治療」であったとされています。
また皇帝ニコライの治世、ロマノフ王朝への神の加護を約束するなど、より皇室に影響力をもつようになり、次第に国政にまで干渉するようになっていきました。
特に、1914年第一次世界大戦が勃発して夫であるニコライ2世が首都を離れて以来、皇后への影響が強まり、ラスプーチンとの愛人関係がささやかれるようになりました。
ラスプーチン暗殺
度重なる国政への干渉、上流社会の醜聞に憤った宮廷貴族であるフェリクス・ユスポフ侯爵はロマノフ朝の権威を回復するためラスプーチンの暗殺を計画、皇帝ニコライ2世の従弟である皇族のドミトリー・パヴロヴィチ大公らも加わり実行に移されます。
▲フェリクス・ユスポフ
▲ドミトリー・パヴロヴィチ
ユスポフは数か月間に渡って、ラスプーチンを油断させるために治療の名目で彼のもとに通って信頼関係を築き、暗殺決行の数日前に、美貌の妻として評判だったイリナに引き合わせることをほのめかして自宅のモイカ宮殿に招待しました。
1916年12月30日、ラスプーチンはユスポフの宮殿で行われたパーティに参加し、暗殺場所としてワインセラーを改築した防音設備が施された地下室にて、青酸カリが盛られたプチフール(1口サイズのケーキ)と紅茶を口にします。
しかし、その毒入りの食事を終えた後にも、ラスプーチンはいっこうに苦しみもせず何らの変化も見られませんでした。
このことに驚愕しながらもユスポフは、次にラスプーチンにデザートワインを飲ませて政治や神秘主義について話し合い、数時間後、彼が泥酔したことを確認して応接室に向かい、ドミトリー大公からリボルバーを受け取ります。
ユスポフは部屋に戻ると、背後からラスプーチンに向かって2発発砲しました。
銃弾はラスプーチンの心臓と肺を貫通し、彼は床に倒れました。
それでもラスプーチンは絶命せずに起き上がり、目を見開いて「自らの危機を知った」と言ったそうです。
これに驚いたユスポフは階段を駆け上がり中庭に逃れ、ラスプーチンはそれを追い、この騒ぎを聞いて駆け付けた仲間の1人、君主制主義者の議員プリシケヴィチから4発の発砲を受け、そのうちの1発が右腎静脈から背骨を貫通し、雪の上に倒れ込みました。
ここまでされてもラスプーチンはまだ起き上がろうとしたため、パニックに陥ったユスポフに靴で右目を激しく殴打され、最期には(誰かによって)額を拳銃で撃ち抜かれました。
ようやく死亡したラスプーチンの遺体の処理、ユスポフたちは相談の結果、ペトロフスキー橋からネヴァ川に投げ捨てることに決めました。
怪僧・ラスプーチンの誕生
ラスプーチンの遺体は1917年1月1日に、凍結状態で発見されます。
遺体の手足はロープで縛られていて、手首のロープは川に投げ捨てられた際にほどけたようで、両腕は死後硬直で伸び切っていました。
その日の夕方にラスプーチンの検死が行われました。
死体検案書に記された死因は、肺に水が入っていたということで「溺死」。
つまりは「川に投げ込まれた時点でもまだ生きていた」ということになります。
ラスプーチンは暗殺の数日前、ニコライ2世に謁見した際に「私を殺す者が農民であれば、ロシアは安泰でしょう。もし、私を殺す者の中に陛下のご一族がおられれば、陛下とご家族は悲惨な最期を遂げる事となりましょう。そしてロシアは長きにわたって多くの血が流されるでしよう。」と言い残しました。
実際1917年に起こったロシア革命(2月革命)でロマノフ王朝は崩壊、ロシア最後の皇帝となってしまったニコライ2世とその一族は、翌1918年に全員が銃殺されました。
数年間の革命と内戦、テロを経て世界初の社会主義国家ソヴィエト連邦が誕生することとなり、貴族階級は一掃されました。
1930年代のスターリン体制下の大粛清でも多くの人命が失われ、皇室関係者をはじめとした貴族もことごとく殺されました。
ちなみにソビエト社会主義共和国連邦の樹立を宣言する連邦結成条約が調印されたのは、1922年12月30日。ラスプーチンが暗殺されたのと同じ日でした。
ラスプーチンの不死身伝説は本当なのか?
ラスプーチンの不死身伝説、まあ不死身といっても結局殺されていますので、ホントかウソかの2択では「ウソ」となりますね。
では、どこまでが「ホント」でどこからが「ウソ」なのか?
青酸カリ混入の飲食物を摂取したにも関わらず死ななかった件
ラスプーチンは無胃酸症または低胃酸症であったためにシアン化水素が発生せず死に至らなかったという説や、毒殺に使用された青酸カリ自体に問題があり、低品質の薬物や偽薬を盛ってしまったという説などがあります。
発砲を受けて銃弾が心臓と肺・背骨を貫通しても死ななかった件
これについては非常に眉唾ものだと思われます。被弾箇所の記述において。
肺はともかく、心臓・背骨となると「ありえない」でしょう。
直接の死因は頭部への被弾
上記、死体検案書に記された死因は「溺死」と書きましたが、実際には肺から水は検出されず、胃からもアルコールが検出されたのみで、毒物も検出されなかったため、最終的な死因としては頭部を狙撃されたためと結論付けられたそうです。
不死身伝説へのシナリオ
何故これほどまでに「説」が飛び交うのか?
ラスプーチンの暗殺の主犯がロシア有数の大貴族のユスポフや皇族のドミトリー大公だったため、警察は、暗殺現場であるモイカ宮殿に立ち入ることすらユスポフに拒否されたためにできないという、全く満足のいく捜査を行うことができない状況でした。
加えて、ソビエト連邦成立後にこれら捜査資料の大半が破棄もしくは消失したため検証は不可能、暗殺の詳細については不明のままとなってしまったことで、様々な伝説が残されることとなりました。
個人的に思うに、ラスプーチンの暗殺の手口とそのシーンの描写がユスポフの回顧録によるっていうのが実に怪しい‥。
というのも、暗殺の実行部隊の主要メンバーである大貴族のユスポフ・皇族のドミトリー大公・議員プリシケヴィチらは暗殺直後は正しい行いであったと嬉々としており、プリシケヴィチなどは警官に「ラスプーチンを撃ったのは自分だ」と自慢までしています。
しかしながら、ラスプーチンの暗殺はアレクサンドラ皇后の逆鱗に触れることとなり、結果としてプリシケヴィチはペトログラードから逃亡、ユスポフとドミトリー大公は自宅軟禁下に置かれました。
これらのことから、ラスプーチンがどれほどの“怪物”であったのかを喧伝することで、自らの保身を謀ったのではないのか? と。
少なくとも実際残された遺体写真からすると、額の弾痕・右目への殴打の跡は見てとれますね。
(ここには掲載できませんが、興味のある方はググってみてください。上手く検索すれば切り取れられた局部の画像とやらにも辿りつけるかも。ラスプーチンの信者の大半が女性であった裏付けとされるものです)
ラスプーチンが登場する作品
- アニメ「ルパン三世 ロシアより愛をこめて」
- アニメ映画「アナスタシア」
- アニメ映画 劇場版 名探偵コナン「世紀末の魔術師」
- 書籍「ラスプーチンが来た」山田風太郎
- 書籍「冬の旅人」皆川博子
- オペラ「ラスプーチン」エイノユハニ・ラウタヴァーラ作
- 映画「ロマノフ王朝の最期」
- 映画 「ラスプーチン」
- 漫画「ドリフターズ」
- 漫画「最後のレストラン」
- 漫画「ノブナガン」
- 漫画「放課後のカリスマ」
- 漫画「ヘルボーイ」
等々。
まさにラスプーチン、「奇怪」「怪異」「怪僧」「怪物」等のワードがピッタリとマッチする人物像ですね。
この特異なキャラクターは今後もアニメ、映画、小説、ゲームなどあらゆる媒体に「悪役として」登場してくることでしょう。
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