先日の日曜日の夕方、どこか遠くの方から「ドーン‥‥ドドーン」という打ち上げ花火の音が聞こえてきました。
日本の夏の風物詩、「花火」。
でも、なぜ、「花火」といえば「夏」なんでしょうか?
加えて、実際にはまず耳にすることはなくなった「た~まや~」「か~ぎや~」という掛け声。歌舞伎においての「よ! 中村屋!!」みたいな。
これって何なんでしょう??
その他、色々まとめてみました。
「花火大会」は何故「夏」なのか?
結論から言うと、そもそもは「送り盆の時期に行われた「鎮魂」の行事であったから」、です。
現在の隅田川花火大会。
毎年、夏になるとテレビ東京系列のテレビ局が独占中継しています。
この「花火大会」の起源は、1732年、享保の大飢饉と虎狼狸(ころうり・ころり。コレラ)の流行によって数多くの死者が出たことで、8代将軍・徳川吉宗が「川施餓鬼」(かわせがき。川辺で死者の霊を弔う法会)を催した、というところにまで遡ります。
翌1733年、幕府は前年に倣っての「川施餓鬼」にあわせて、「慰霊」「悪病退散」を祈願して水神祭を実施し、(20発前後の)「花火」を打ち上げました。
【名所江戸百景 両国花火】 歌川広重
他の「送り盆の時期に行われる「鎮魂」の行事」の分かりやすい例としては、「灯篭流し」や、京都の「大文字焼き」などが挙げられます。
一般的に「お盆」は、8月15日を中心(お盆の中日)とした13日〜16日の4日間の期間。
13日に先祖の霊を迎えるための「迎え火」を焚くことから「迎え盆」、16日に先祖の霊を送り出すための「送り火」を焚くことから「送り盆」といいます。
ちなみに、以下の「お盆のお供え物」、実際に見たことありますか?
その意味については、ご存じでしょうか??
(画像出典 :薔薇街道)
「キュウリ」は「ウマ」、「ナス」は「ウシ」を意味しています。
亡くなったご先祖様たち、「一刻も早く子孫に会いたい」という思いから、脚の速い「ウマ」に乗って「迎え盆」に「現世」へ‥。
そして、「子孫たちとの別れが名残惜しい」という思いから、脚の遅い「ウシ」に乗って「送り盆」に「あの世」へとノロノロと帰ってゆく‥
その際、あまりにも「この世」への執着が強すぎて、なかには縁の深い人たちを「一緒に連れて帰ろう」とする者もいるそうです‥。
【まとめ】:「花火大会」は「鎮魂」の意味、なので「お盆」の「夏」と覚えましょう。
「た~まや~」「か~ぎや~」という<謎の掛け声>
漢字にすると「玉屋」と「鍵屋」。
これは、江戸時代にその人気を二分した「花火師の屋号」です。
前述の「隅田川花火大会」、江戸時代において、上流は「玉屋」、下流は「鍵屋」が担当して交互に花火を打ち上げるという「江戸を代表する2大花火師の競演」の一大イベントでした。
観客たちは「いいね!」を感じた方の屋号名を大声で呼んで、応援しました。
その掛け声が「た~まや~」であり、「か~ぎや~」です。
【東都両国夕涼之図】 歌川貞房 (画像をクリックすると、超拡大画像が見られます。人々の仕草から表情まで確認できますよ (*´∪`*))
実は、歴史としては「鍵屋」の方が古く、創業は1659年。
のちに7代目「鍵屋」の番頭(玉屋清吉、のちの玉屋市兵衛)が暖簾分けとして、1808年に「玉屋」を創業。
しかしながら、人気としては「玉屋」の勝ちで、「鍵屋」の掛け声が上がらない‥。
なので、「た~まや~」「か~ぎや~」という順で表現されている次第。
ちなみに「玉屋」、1843年に失火事故を起こして、半丁(参考 : 1丁(1町)=3,000坪=9,900㎡ほど)を焼失させた罪で、江戸処払い(追放)を命じられ、1代限りで断絶してしまいました。
江戸時代の火事、とにかくとんでもなく大変な事態だったんです‥。
(過去記事 : 江戸時代の消防隊「火消」の破壊任務が興味深い)
一方の「鍵屋」ですが、「株式会社 宗家花火鍵屋」として現存しています。
こういう綿々と続いている歴史‥。大好物‥。
打ち上げ花火の「花火玉」ってどういう構造なの?
(画像出典 : 暮らしのなかの化学をたのしもう)
「花玉火」の中身を見てみたい
【竜頭(りゅうず)】
仕上がった花火玉をこの吊り輪にロープを通して吊り下げ、「打ち上げ筒」に装填します。
【上貼紙(玉貼り)】
「玉皮」の外側に丈夫な紙を幾重にも貼って、強度を与えます。
「玉皮」の強度、「割火薬」の爆発力、加えて「玉貼り」の作業とのバランスが、花火の大きさに大きく関係しています。
【割火薬】
割薬(わりやく)、破弾薬(はだんやく)。
「星」に点火、「玉皮」を壊して四方八方に飛ばす役割を持ちます。
【星】
これが花火の本質、夜空に咲いた時の花弁となっているものです。
上図のような「芯物」「芯入り」と呼ばれる「いくつもの同心球に開く割物」では、火薬玉に詰める星の大きさもそれぞれの層により違い、一番外側の花弁を作る星の「親星(おやぼし)」の直径は大きく、内側の花弁を作る「芯星(しんぼし)」の直径は小さくなります。
ちなみに「星」は、英語でも「Star(スター)」です。
【玉皮】
玉殻。球状の容器。
今では基本的にボール紙をプレスして作られるものを用いているものの、昔は新聞紙や和紙を貼り重ねて花火師自身が制作していました。
現在は「エコ」ということで、微生物によって分解されやすい素材も使用されています。
【親導】
「おやみち」または「みち」、「導火線」のことです。
その底に「親導」が付いた花火玉を打ち上げ筒の中に装填、発射火薬に点火すると「親導」に着火、と同時に空高く打ち上げられます。
その後の時間経過で内部の割火薬に火が燃え移り、爆発という流れです。
「打ち上げ花火」の基本的な3種類の構造
割物(わりもの) 火薬玉の内側に「星」を敷き詰めて中央に「割火薬」を収め、外側の「玉貼り」を丈夫な紙で幾重にも張り固めて作ります。外皮の強度と「割火薬」の爆発力、大きくて丸い「同心円状」の花火が咲きます。 | ||
小割物(こわりもの) 四方八方に小さな玉を放出、いくつもの小花を一斉に咲かせるものです。「ドーン」の後の「パラパラパラ」音の正体。千輪菊、花園、百花園と呼ばれます。 | ||
ポカ物 球体の「火薬玉」がポカッと割れて、中に収納された「星」や細工が施されたものを放出、これがポカ物です。「非同心円」で、動きも「不規則」。詰めるものによって色々な工夫ができます。運動会の始まりの合図「ドンドン」と音を出している正体です。 |
その他の種類として、「仕掛け花火」があります。
「打ち上げ」を利用したものとしては「スターマイン」(連射連発花火)、でないものの代表は「ナイアガラ(ナイアガラの滝)」。
スターマイン。(star mine = 星 地雷。和製英語)
ナイアガラ(の滝)。(Niagara Falls)
ちなみに、こちらも「文字仕掛花火」。
「金鳥の夏、日本の夏」‥。
現在では、こちら。
風情もへったくれも無くなってしまいましたな‥。
打ち上げの仕組み
【直接点火】
まずは打ち上げ筒を立てて強固に固定し、打ち上げ用の「発射火薬」を入れます。
「竜頭」にローブを通して花火玉を筒の底に装填すると準備完了です。
ここで「投げ込み」(シントル・手牡丹とも言う)と呼ばれる1~2センチの火薬の塊に火をつけて筒の中に投げ入れ、「発射火薬」に着火します。
発射火薬の爆発によって生じたガス圧で、花火玉は空高く放出されます。
この時、花火玉の「親導」(導火線)にも着火、これが燃え進んで中心の「割火薬」に着火することで全ての「星」も着火。
加えて、その爆発力で「玉皮」を粉砕して「星」を四方八方に吹き飛ばします。
それぞれの「星」が燃えながら落下‥これが花火の正体です。
【電気点火】
遠隔操作での電気点火の場合は、発射火薬に挿入した点火玉に通電することで着火します。
全ては「安全のため」に‥。
その昔、花火師が花火玉の導火線に直接火を付ける直接点火で花火を打ち上げていたため、導火線の長さや点火のタイミング、外皮の強度など、全てを計算され尽くした上での職人技を前提として花火は打ち上げられていました。
しかしこの作業、非常に危険です‥。
そりゃまあ、そうですよね‥。
天空高く、数100メートルの高さまで打ち上げられる数10キロもの重量のある「爆発物」が目の前にあるわけですから‥・
例えばいわゆる「尺玉」。
「一尺」は直径30cmほど。その重さは8kg~10kg。打ち上げられる高さが330m。
(東京タワーの高さが333メートル)
「三尺」となれば、直径約90cm。打ち上げられるその高さは600m。
(スカイツリーの高さは634メートル)
花火、開花(花火玉)の直径が大きくなればなるほど、高度は高く設定されます。
魅せなければいけませんので。
1989年、横浜山下公園の花火大会で爆発事故があり、花火師2名が死亡しました。
2009年、改正された火薬類取締法施行規則により、「電気にての打ち上げ筒より20メートル離れての点火方式が原則」となり、電気点火以外での点火(直接点火)の場合は、「防爆壁を設けること」が義務付けられました。
(参考 :2019年12月23日、火薬類取締法施行規則の一部が改正。)
「尺玉」についてもうちょっと掘り下げてみる
「ギネス」にも載った世界最大の「尺玉」は「4尺玉」(直径・約120cm)です。
1985年(昭和60年)9月10日、日本の片貝まつり(新潟県小千谷市片貝町開催)において永遠会(とわかい。小千谷市立片貝中学校第18回卒業生同窓会)が奉納し、片貝煙火工業の花火師・本田善治が打ち上げに成功し、当日付けで後日、「世界最大の打上花火」としてギネス・ワールドレコーズ(ギネスブック)に登録された。(Wikipedia)
上記、「一尺玉」は直径30cmほどで、重さは8kg~10kg、打ち上げ筒の高さは1m50cmくらいです。
(画像出典 : 尺玉100連発)
これが、「×4」のギネス記録、「4尺玉」の打ち上げ筒の場合は、こうなります。
(画像参照 : Audio-VIsual Team VINZ)
「花火玉」の大きさはこちら。
(画像参照 : じゃらんnet)
「打ち上げ筒」(煙火筒)は、高さ520cm、厚さ1.8cmの鋼鉄製。
打ち上げられた高度が約800m、開花の直径も約800m。
まさに、バケモノ‥。
その他にも、例えば直接点火での「早打ち」なる職人技としての伝統技法もあります。
あらかじめ、打ち上げ筒に「焼き金」と呼ばれる物(鉄のチェーンや鉄板等を真っ赤になるまで焼いた物)を装填、花火玉そのものに「発射火薬」を取り付けて筒内に投入、その燃焼・爆発によって花火玉が上空へ打ち上げられます。
メチャメチャ危険な職人技ですね。
花火大会による死亡事故、当然ながらこんなものは避けなければいけないことは分かっているものの、この世の中、何もかもにおいて「安全第一」を基準としすぎている‥。
これを良いことに、本来の「職人の世界」に「電気仕掛けのド素人ども」が花火の世界に入り込みすぎ‥。
『葉隠』(はがくれ) 。
「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」。
これはまああまりにも極端にせよ‥なんというか‥。
同様の違和感を感じられておられる「昔気質の命がけのプロの花火師さん」‥いらっしゃいませんか‥?
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