「オオカミの再導入」という謎のプロジェクトについて、ご存じでしょうか?
1995年、カナダから「持ち込まれた」14匹のオオカミたちがアメリカのイエローストーン国立公園に放たれました。
さらに翌年の1996年、17匹が追加されて「合計31匹のオオカミたち」。
当時、壊滅的な危機に陥っていたイエローストーン国立公園‥。
その現状を救うために放たれた希望の星‥。
この「31匹のオオカミたち」が、自然界における奇跡を引き起こします。
「バタフライ効果」(butterfly effect)
映画「ジュラシックパーク」に登場したひねくれ者のカオス学者が「北京でチョウチョが羽ばたくと、ニューヨークに嵐が起きる」とか言ってた、アレです。
力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象。(wiki)
元々は気象学者であるエドワード・ローレンツが「チョウチョが羽ばたく程度の非常に小さな空気の撹乱作用が、遠く離れた場所の気象に影響を与えるのだろうか‥?」などと難しく考え過ぎ、もしもこれが正しいとするなら、気象観測の誤差を無くすことができなければ正確な長期予測など根本的にできない‥とかというお悩み相談みたいな研究報告に由来したものです。
「大自然」 VS 「31匹のオオカミ」という物語。
まさにハリウッド映画がごとくの展開‥というより「風が吹けば桶屋が儲かる」的この流れ‥。
この「31匹のオオカミ」たちによる「バタフライ効果」についての物語をご紹介致します。
「オオカミの駆除」の結果
アメリカのイエローストーン国立公園は、アイダホ州、モンタナ州、ワイオミング州の3つの州にまたがる広大な土地を持つ1872年に世界初の国立公園に指定された国立公園です。
様々な間欠泉や温泉が散在していることで観光スポットとしても有名で、ここに生息している「オオカミ」「グリズリー」「アメリカバイソン(バッファロー)」「ワピチ(エルク)」などの群れが生息していることでも知られています。
地上に残された数少ない手付かずの巨大温帯生態系の一つであるイエローストーン圏生態系(Greater Yellowstone Ecosystem)の中心になっています。
1990年代、このイエローストーン国立公園が壊滅的な危機に陥っていました。
その最たる原因が「オオカミの駆除」。
この愚行による弊害をニンゲンは後ほど知ることになります。
イエローストーン国立公園で、最期に野生のオオカミがニンゲンによって殺し尽くされたという公式記録が残っているのが、1926年。
本来、オオカミは食物連鎖のピラミッドの頂点に立っている者(頂点捕食者)、多くの草食動物の命を奪い取ることで生き延びているという存在です。
このオオカミたちが絶滅させられたことでピラミッドのバランスが崩れ、天敵がいなくなった草食動物であるワピチ(シカ)たちが大量繁殖、エサとして植物を食い荒らし、ほとんどの草木が姿を消し、その土地はもはや裸同然という事態に陥ってしまいます。
愚かなニンゲンども、「本来の自然」を取り戻そうとあれやこれやと手を尽くしたものの、当然、大自然を相手に敵うわけもなく、やがて様々な議論の末、
「もう一度、オオカミをこの土地に戻そう 」
ということになりました。
これが、【オオカミの再導入】(wolf reintroduction)です。
【オオカミの再導入】(wolf reintroduction)
イエローストーン国立公園に放たれた「合計31匹のオオカミたち」‥。
このあと、誰も予想し得なかった異様な変化を自然界にもたらすことになります。
シカの数が減少
放たれたオオカミたちが、ワピチ(エルク=シカ)をエサとして捕食することによって、当時2万頭以上いたというその頭数が半数以下にまで減少していきました。
ワピチたちも、突如として現れた天敵のオオカミの存在により、その行動自体に変化を起こします。
オオカミたちに見つかりやすく狙われやすい場所、逃げづらい谷間や障害物があるような狭い道などを避けて生息するようになりました。
植物と鳥類が復活
すると、そのワピチたちが近づかなくなった地域においては、植物たちが育ちはじめ、草木の緑が急速に息を吹き返し始めます。
たった6年で木の高さが5倍に伸びたという場所もあるというほどに。
そのうちすぐに、アスペンやハコヤナギなどが生い茂る森となり、そこを住み処として求める多くの鳥たちが戻ってきました。
ビーバーの頭数も増加
森が復活すると、その木々を使ってダムを作るビーバーも住み着くようになり、生息数を増やし始めます。
このビーバーが作ったダムのおかげで、カワウソ・マスクラット・カモ・アヒルなどのほ乳類、加えて、その他多くの生物、魚類、は虫類、両生類といった生き物たちの居住地が確保されることとなって、水辺は本来の豊かさを取り戻していきました。
ウサギやネズミも増えてゆく
オオカミが絶滅されられた森において、食物連鎖のピラミッドの頂点に立っていたのはコヨーテです。
が、コヨーテは大型の草食獣であるワピチを狩ることはできず、エサの対象はウサギ・ネズミといった小型の動物でした。
ところが放たれたオオカミ、ワピチはもちろん、このコヨーテすらも捕食します。
よって、コヨーテの個体数は減少し、その捕食対象であったウサギ・ネズミがその個体数を増やすことが出来ることとなります。
ウサギやネズミの個体数の増加により、これらをエサとして狙っているワシ・タカ・イタチ・キツネ・アナグマなども徐々に姿を見せはじめます。
カラスやクマもやってくる
オオカミの食べ残しをエサとして求めて、カラスやグリズリーさえもやってきて、それぞれその個体数を増やしていきます。
この記事を書くにあたって調べていたところ「グリズリーの個体数の増加はベリー類が再び育ち始めたことにも起因している」とありました。
確かにクマは雑食性なのですが「ホントに木の実というエサ程度でグリズリーが繁殖‥?」と疑問に感じていたところ、以下の動画が見つかりました。
なるほど、クマが何やら木の実を取って食べていますね。むしゃむしゃと。
もちろん、グリズリーは他の肉食獣もエサとして食べるため、ワピチの子供を狙うなどオオカミの生活も影響を及ぼすようになり、本来あるべき自然の生態系の回復を目的としたこの人為的プロジェクトに対しての成果が確認されることとなりました。
地形の変化にも影響を及ぼす
この31匹のオオカミたち、上記、他の生物の生活に大きな影響を与えただけではなく、大自然の地形の変化にまで関わることとなり、実際に川の特徴までも変えてしまいました。
森が復活したことで、各種の動物が戻ってきて川辺が安定、植物たちも増殖し、これまでは曲がりくねっていた川が緩やかな蛇行流となって、結果、川岸の浸食が減り、水路も狭まって多くの水たまり場や浅瀬も出現しました。
この状況、まさに全ての野生の生物たちが生息していくための最適の環境です。
大昔にニンゲンによって放たれた、このたった31匹のオオカミたち、たった1つのオオカミの群れ(ウルフパック)が、これほど様々な劇的な変化をもたらすことなどは、誰も予想だにしていませんでした。
ちなみにオオカミ、1973年より絶滅危惧種に指定されていましたが、現在、保護の必要がないまでに増え、その個体数も安定したことから、2012年9月末に絶滅危惧種の指定を解除されました。
だからって‥。これなのかよ‥。
「オオカミの再導入」に際して当時、「自然には手を付けずそのままであるべき」などいう反対の声もあがっていました。
自然‥??
イエローストーンからオオカミが消えた理由は、「自然破壊とその駆除による」とされています。
明らかに、人為的。
自然による淘汰の結果としてオオカミが絶滅してしまったんじゃないんだけど‥?
まあ、ニンゲンの存在とやらも自然とやらのサイクルの中にあるらしいのですが‥。
“自然”って一体、何??
我々ニンゲンは食物連鎖のピラミッドのどこに位置しているのでしょう‥?
はたして、我々は「頂点捕食者」なんでしょうか‥?
(画像出典 : サンゴ礁年漂流記)
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