腺癌(せんがん)とは?
腺(せん)とは、身体の器官のうちで分泌活動を行う細胞の集まりのことです。
ヒトの身体の中の各臓器が出す涙や唾液、胃液、胆汁などの様々な分泌物は、この腺組織から分泌されます。
腺癌(せんがん)とは、上記、分泌腺組織に発生する癌(がん)のことをいいます。
肺・肝臓・膵臓・胆嚢・胃・甲状腺・リンパ・乳腺・子宮・前立腺など、身体のあらゆる臓器に発生します。
肺腺癌(はいせんがん)と肺癌(はいがん)の違い
肺腺がんは肺がんの種類のうちの1つです。
肺がんの種類
がんの細胞や組織を調べるとその集団の形に違いがあり、いくつかの種類に分類することができます。これを”組織型”といいます。
「肺がん」は”組織型”では、大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分けることができ、「非小細胞肺がん」はさらに「腺がん」「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」「大細胞がん」に分けられます。
小細胞肺がん
組織型 | おもな発生部位 | 特徴 |
小細胞がん | 肺の入り口付近 | ・肺がん全体の10~15%を占める ・ほとんどが喫煙者 ・進行がはやい ・転移しやすい ・薬物療法や放射線療法の効果が高い |
非小細胞肺がん
組織型 | おもな発生部位 | 特徴 |
腺がん | 肺の深いところ | ・肺がんの60%程度を占める ・女性や非喫煙者にも多い ・症状が出にくい |
扁平上皮がん | 肺の入り口付近 | ・肺がんの25~30%を占める ・ほとんどが喫煙者 |
大細胞がん | 肺の深いところ | ・肺がんのうちでは数%と少ない ・増殖が速いことが多い |
肺腺がんの特徴
肺腺がんは、肺がん全体の60%ほどを占めている癌で、一番発生率が高い肺がんです。
また、発生頻度をみると喫煙率が低い女性の方が高く、また非喫煙者であっても罹りやすいという特徴があることから喫煙との因果関係は薄く、直接的な原因ではないと考えられています。
男女別に発生率をみてみると、男性の場合約40%、女性の場合約70%となっており、しかもこの割合は年々増加の傾向にあります。
女性の罹患率が男性よりも高いことから、女性ホルモンとの関係が深いとされています。
肺腺がんは、肺野部と呼ばれる気管支の末梢から肺胞のある肺の奥の部分に発生する「肺野型(末梢型)肺がん」がほとんどです。
そのため、太い気管支に近い中心の肺門部に発生することは稀なので、通常のX線検査で発見されやすい傾向にあります。
肺腺がんは、初期の段階では自覚症状がなく、にもかかわらず進行の速度は非常に速くて、しかも転移しやすいという特徴を持っている実に恐い病気です。
肺腺がんの症状
肺腺がんは前述のように、肺の末梢部分に発生する「肺野型がん」としてあらわれることがほとんどなので、(他の種類の肺がんも同様ながらも)初期症状が出づらいものです。
今回、中村獅童さんがインタビューで語っていたように、初期段階で自覚症状を感じることはまず無く、早期での肺腺がんとなると「定期的ながん検診・健康診断などで偶然に発見」となります。
ただ病状が進行してくると、様々な症状がみられるようになります。
・原因不明の長期に及ぶ空咳
・痰のからみが多くなる。血痰も混じっている
・喘鳴(ぜいめい。正しくは「ぜんめい」。ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)
・咳をした際などの胸の痛み
・顔、首、上肢のむくみ
・食欲減退と嚥下(飲み込み)のつらさ
・体重の減少
・リンパ節への転移による身体全体の倦怠感や激痛
・胸水(胸に水がたまる)
・胸や腕、肩などの痛みや痺れ
肺腺がんの治療法
肺腺がんを含んだ「非小細胞肺がん」の治療方法としては、一般的ながんの3大療法「手術療法(外科手術)」「放射線療法」「化学療法(抗がん剤)」以外の多くの療法も用いられています。
レーザー光線療法
腫瘍焼灼法(しゅようしょうしゃくほう)とも呼ばれているレーザー光線を用いてがん細胞を死滅させる治療です。
主には、内視鏡を使ってその先端部からレーザー光線を直接がん細胞に照射して腫瘍を焼く、という方法がとられます。
内視鏡を用いるために正確なレーザー照射が可能で、また患者にとっては開腹する必要がないため、肉体的な負担が少ないのが利点です。
ただ、レーザーは組織の奥までは届かないため深い部分に潜んでいるがん細胞には使用できず、また、焼灼の高出力レーザーの照射で強い炎症が起こって出血や穿孔(組織に穴が開いてしまうこと)などの合併症を引き起こすというリスクもあります。
また、外科手術と比べるとがん細胞を取り残してしまうリスクが残されるため、ごく早期でサイズとしてもすべて焼き殺せると判断された場合にのみ、適用されます。
光線力学的治療(PDT)
光線力学的療法も、上記「レーザー光線療法」と同じくレーザー光線を用いた治療法ながら、がん細胞に取り込まれやすく特定のレーザー光に強く反応する特性を持った薬剤を前もって点滴で静脈に投与した上で、レーザー光線を照射するという治療法です。
投与される薬剤は光に強く反応する「光感受性物質」であるので、特定の波長を持つレーザー光を照射することにより、その光と薬剤の化学反応によって活性酸素が生じ、がん細胞死滅させます。
つまり、従来の「直接がん細胞を確認して焼く」というレーザー光線療法(腫瘍焼灼法)では他の正常な細胞も傷つけることがあったものの、光線力学的療法は、まずは特定のレーザーに強く反応する物質を一旦病巣に取り込ませてからの照射であるため、がん細胞にピンポイントでより強いダメージを与えることが可能となります。
光線力学的療法(PDT)は、レーザーの照射範囲は狭く、照射時間も短く、低出力のレーザーでも十分に効果が期待できることから出血や穿孔などのリスクも抑えられるため、患者の負担をより軽くすることができます。
ただ、この光線力学的療法(PDT)は「腫瘍焼灼法」と同じく、がんのサイズ等によって死滅しきれない可能性があるため、粘膜層に留まる程度の早期がんの治療にのみ適用されます。
また、光感受性物質を投与した後には日光にも過敏になってしまうため、使用する薬の種類にもよるもののおよそ1か月ほどはひどい日焼けを防ぐために紫外線を避ける必要があります。
標的療法
標的療法とは、がん細胞だけに効く「分子標的薬」を用いた治療法です。
肺腺がんを含む非小細胞肺がんの治療で用いられる分子標的薬としては、モノクローナル抗体とチロシンキナーゼ阻害剤の2種類の「分子標的薬」が使われます。
モノクローナル抗体
モノ(mono)は「単一」、クローナル(clonal)は「クローン(性)、純株、純系、混じりけのない集合」の意味。対義語はポリクローナル抗体。
がん細胞というのは他の正常な細胞にはない特定の「目印」を持っています。
ウイルス感染細胞やがん細胞などの「異物(抗原)」に対し、ヒトの免疫細胞のB細胞はこの「目印」をもとにこれに結合して倒すための「抗体」を作ります。
これを量産できればという発想で生まれたのが「モノクローナル抗体」。
1体1の決闘。
チロシンキナーゼ阻害剤
チロシンキナーゼはたんぱく質を構成するアミノ酸の一種で細胞の増殖・分化などに関わる信号の伝達に重要な役割を果たしている酵素。
この活性化を選択的に阻害することによって、がん細胞の増殖を抑制しようとする薬です。
電気焼灼術
電流で熱した針やプローブ(探針)を用いて、がん細胞を焼灼して死滅させる治療方法。
凍結療法
凍結療法とは、がん細胞を凍結させて活動を停止、死滅させる治療方法です。
一般に、外科手術や化学療法、放射線療法などを受けられない部位や症状の患者を対象に行われている治療法です。
冬山の登山などでの低温による指先など末端部分の「壊死」と同じ理屈で、がん細胞をやっつけようというもの。
実際の施術は、針のついた冷凍手術器を挿入、その先端から超低温の炭酸ガスをがん細胞に噴射。壊死したがん細胞は、数か月~1年で体内から自然に消滅するとのこと。
この凍結療法もその範囲が小さいために臓器の機能を温存でき、患者の負担が少ないというメリットがあるものの、例によって取り残しのリスクは否めません。
光免疫療法(PIT・NIR-PIT)
「近赤外光線免疫療法」とも呼ばれるこの治療法、1分でがん細胞を破壊し、副作用もなく、がんの8~9割をカバーでき、更には同じ種類のがんであれば転移先の治療にも有効であるとされる画期的な治療法です。
そのメカニズムがハリウッドぽくってとても興味深いので、簡単に流れを紹介します。
■ヒトの身体の免疫システム
異物を排除する免疫システムの主役は、「NK(ナチュラルキラー)細胞」「キラーT細胞」「B細胞」などの免疫細胞たち。
がん細胞を異物として捉えて免疫細胞の各チームが協力して排除を試み、攻撃を仕掛けます。
■がん細胞の対抗策
がん細胞としてもただ単にやられてしまうのを待つだけではなく、防御のためにさまざまな策を講じます。
その作戦の一つが、「制御性T細胞」を利用するというものです。
制御性T細胞とは、免疫細胞の過剰な働きを抑制するためのブレーキをかける細胞のことで、本来は免疫機能の恒常性の維持のために重要な役割を果たすものです。
が、何故かこの制御性T細胞ががん細胞の周りに集まることが判明。このことにより、がん細胞を攻撃する役割を持っているはずの免疫細胞の活動が抑制され、いわば眠らされたかのような状態となってしまい、がん細胞はその間にドンドン増殖を続けます。
■制御性T細胞だけに影響を与える薬剤の投与
光免疫療法でも「だけに効く薬剤」、制御性T細胞だけと特異的に結び付く「抗体」、近赤外線に反応する物質(IR700)を加えたものを、静脈注射で患者の体内に注入します。
結果、体に入ったその薬剤はがん細胞の周りにいて守っている制御性T細胞に届いて結合、そこに近赤外線を照射すると化学反応が起こって、制御性T細胞は熱をもって死滅します。
■目覚めた免疫細胞たちの総攻撃
もはや邪魔者と成り果ててしまった制御性T細胞がいなくなったことで、休眠状態にさせられていた我らが勇者・免疫細胞たちが目を覚まし、がん細胞への総攻撃を始めることになります。
しかもその状況、ホントは「抑制役」を担っていたはずの”邪魔者”の制御性T細胞がいなくなったことで、以前よりもより効率的な攻撃が可能となっています。
■がん細胞の死滅
上記の結果、為す術もなく、ほどなくがん細胞は死滅に追い込まれることになります。
マウスを使った実験の結果として、近赤外線の照射から、およそ1日ですべてのマウスのがんが消滅したとの報告があるそうです。
■光をあてなかった転移先のがんも消える
ビックリすることに、同じ種類のがんであれば、原発巣の箇所だけに近赤外線をあてるだけで、他の転移巣の部位のがん細胞をまで死滅できるとのこと。
その理屈としては、「近赤外光線免疫療法」を受けて目覚めた免疫細胞たちが、血液に乗って全身を駆け巡り、すでに対がん戦の必勝手段は得ていることからも、転移先の部位におけるがん細胞との戦闘についてももはや実践レベルそのもの、ということのようです。
個人的には、この治療法が一番可能性を感じますし、好きです。
楽天の三木谷会長は、2017年2月13日に行なわれた楽天グループの決算説明会の会場で、同社が筆頭株主となっている米医療ベンチャー、Aspyrian Therapeutics,Inc.の取締役会長に就任したと語った。同社は米国立がん研究所(NCI)の小林久隆主任研究員が開発した、副作用がほとんどないとされ、非常に注目されている近赤外線照射によるがん治療法「光免疫療法」のライセンスを持っている。三木谷会長は国内企業との合弁による事業化も視野に入れていると話した。
遺伝子療法
がん細胞は発生するやいなや、正常な細胞にはありえない速さでの増殖を繰り返すという特性をもっています。
このがん細胞に見られる異常な活動の原因として、がん細胞への変異を抑制する役割を持つタンパク質の「がん抑制遺伝子」の機能不全が挙げられます。
この「がん抑制遺伝子」の中でも特に「P53遺伝子」と呼ばれるものが、肺がんの発生に深い関わりがあるとされています。
「p53遺伝子」とは、「がん抑制遺伝子」の1つで、それぞれの細胞内でのDNA修復や細胞増殖サイクルを制御する機能を持っていて、細胞ががん化したときにはアポトーシス(細胞の自殺)を引き起こさせるものと考えられています。
この「p53遺伝子」が機能不全に陥ると、がんが発生するというわけです。
肺において、「P53遺伝子」が異常をきたすケースが多いことから、これが肺がんの原因となっていると考えられており、正常な「P53遺伝子」を肺に送り込むことで肺がんを抑制・消滅させようというのが、遺伝子治療というものです。
遺伝子検査による「個別化治療」
現在、肺がんと診断された場合、遺伝子検査によって患者それぞれに合った治療を考える「個別化治療」が行われています。
最近の研究ではそれぞれのがんに特有の遺伝子変異が存在することが分かってきており、肺がんの場合は「EGFR遺伝子変異」の検査を行うことが一般的です。
「EGFR」とは、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor)のことで、細胞の増殖や成長を制御するためのスイッチのような役割を果たしています。
ここに異常を来すと、がん細胞を増殖させるスイッチが常にオンとなっているような状態となってしまい、がん細胞が限りなく増え続けてしまいます。
これに加えて新しい遺伝子変異のタイプである「ALK 融合遺伝子」の検査を行うことも重要です。
「ALK 融合遺伝子」とは、がん細胞の増殖にかかわる遺伝子で、なんらかの原因により「ALK 遺伝子」と他の遺伝子が融合することでできる特殊な遺伝子のことです。
そもそも「ALK遺伝子」は細胞の増殖を促す役目を持ち、通常はスイッチのオン・オフの切り替えがうまく制御されています。
が、他の遺伝子と融合して「ALK融合遺伝子」となると、ここから発現されるタンパク質(ALK融合タンパク)の作用によってスイッチが常にオンの状態になり、特にがん細胞を増殖させる能力が強いため、がん細胞を限りなく増殖させ続けることとなります。
まずは遺伝子検査を受けて、自らに合った肺がん治療を選択することが大切です。
日本人の死因 第1位は肺がん
厚生労働省のHPにある性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合 によると、日本人の男女総合での死因、その第1位は「悪性新生物(ガン)」です。
2位が「心疾患」、3位が「肺炎」、4位が「脳血管疾患」、5位が「老衰」 となっています。(以下、「不慮の事故 」「腎不全」「自殺」「大動脈瘤及び解離」「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」と続きます)
そして、がんの部位別の死亡者は国立がん研究センターの最新がん統計によると、男女計で第1位が「肺」、以下「大腸」「胃」「膵臓」「肝臓」となっています。
つまり、人生の終わり、日本人のほとんどが「肺がん」で死んでいるとも言えますね。
ちなみに「肺がん・予防」でググってみると、「禁煙」を皮切りとして相変わらず何の根拠も示さずに自らの理論を繰り広げて、見聞きしただけの食事やら生活習慣(ストレス)やらのドーデモイイ情報をしたり顔で垂れ流しているサイトの多いこと。
欺されないように。
(追記 : 2017/06/16)
野際陽子さんの死因も「肺腺癌」だそうです‥。
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