まずは今回問題となっている 沖縄・美ら海水族館での「マグロの水槽への衝突死・激突死の映像」をご覧ください。(掲載する以上リンク切れについてはできるだけフォローしていますが、追っつかない‥。もはや削除済で合った場合、何卒ご容赦を)
【水族館大魚突然死亡】
【 沖縄美ら海水族館でマグロが激突死!】
「今回の問題」とは?
「美ら海水族館でフラッシュに反応したマグロが水槽に衝突して死んじゃった 皆フラッシュやめようね」
上記の動画を見た女性が、調べもせずについつい「知ったか」でツイートしたのがきっかけ。
当初は共感を呼んで2万回以上というリツイートという反響があったそうながら、実際に美ら海水族館の公式HPの「よくある質問」を見てみると、
「館内の制限が設けられていないエリアではフラッシュを使ってもかまいません」
とある。
つまり結局、マグロの衝突死・激突死の原因はカメラのフラッシュではなかった。
すると途端に悪者扱い、デマを流した罪ということでいつも通りの祭りが始まって、彼女の過去に投稿した画像からその容姿についての批評までに至った、というもの。
まあ同じくネットに情報を発信している立場からすれば「さもありなん」。
適当な考えでいいかげんなことをしてたら痛い目に遭うってのは分かりきっているので。
ましてや個人を特定できるような環境下での発信となれば、ガードが緩すぎw
可哀想とも気の毒とも思いません。「でしょうね」で終わりです。
「ツナ」=「シーチキン」ではなくて英語での「tuna」のこと
身の回りにも意外とこれについて知らない人が多いようなので、一応触れておきます。
「ツナ」=「tuna」=「マグロ」です。
ただ、厳密に言うと学術的な分類では「カツオ」なども含めた広い範囲を指しての「ツナ」ですので、「ツナ缶」=「マグロ缶」というイメージで買ったのに原材料の項目に「カツオ」とあっても怒らないように‥。だまされてませんから。
で、そうとなると「シーチキン」とは、何なのか?
シーチキンとは、静岡市清水区に本拠を置く水産加工品製造販売のはごろもフーズが製造する『「マグロ」又は「カツオ」の「油漬け」又は「水煮」の缶詰』の商品名(登録商標日本第529904号ほか)である。名前の由来は、味が鶏肉のささみに似ていることからである。(Wikipedia)
一般的に「シーチキン」=「マグロ」と思っている人が多いものの、単に「はごろもフーズ株式会社」が製造・販売している缶詰の名前、登録商標(1958年)です。
(類似商品 : いなば食品「いなばライトツナ」、モンマルシェの高級品「 ホワイトツナ」)
マグロの養殖はできないはずでは?
私が“事実”として大昔から聞かされてきたマグロの養殖はできない理由は、以下の4つ。
・マグロは泳ぎ続けていなければ呼吸ができずに死んでしまう
マグロに限らず回遊魚の特徴として、金魚のような止まってパクパクというエラ呼吸はできないので、常に酸素を取り込むために口をパカッと開けて泳ぎ続けるしかない。なので、寝ていながらも泳いでいる。
・マグロの泳ぎは高速で直線的
泳ぎのスピードは巡航速度(ずっと出していられる速度)が60~80km/h。最高速度は160km/h。
よって、「ずっと泳ぎ続けなければならないという運命を背負ったマグロ」のこの速度に対応できるような水槽を備えることは難しいので、養殖はおろか水族館で飼育することもできない。
・マグロの性格は超繊細
ちょっとした刺激に対しても敏感に反応してしまう。
ビックリして暴れて激突してケガをして死んでしまうという事態に対応できない。
・マグロの赤ちゃんの生態が分からない
「ウナギ」と同じく、産卵条件やエサについて良く分かっていないので、育てようがない。
マグロの泳ぎのスピードはウソだった
実際のマグロの泳ぎのスピードは 7km/h だそうです‥。
高速遊泳(と思われている)のサメやペンギンやアザラシなどの遊泳スピードをあまた測定してきたけれど、平均的な遊泳スピードは例外なく時速8キロ以下である。
(NATIONAL GEOGRAPHIC 日本版 「マグロは時速100キロで泳がない」より)
なんだこれ‥。
ニンゲンの歩行速度の平均が4.8〜5.4km/hらしいので、ほぼその倍程度。
それなら水族館での飼育も可能なんじゃね‥? (というかまあ、実際に展示されてるし)
ってか今でも、公益財団法人 日本海事広報協会のHPの「キッズ」の項目、「海と船 なるほど豆辞典」→「海の生物のなるほど」→「魚の泳ぐ速さ」に“マグロの泳ぎのスピードは80~90km“って書いてあるじゃないか‥。
おい、公益財団法人、これからもボクたちこどもを欺し続けるつもりなのかえ‥?
マグロの「養殖」について
2014年、国際自然保護連合(IUCN)が作成する「絶滅の恐れがある野生生物を指定するリスト」= 「レッドリスト」で太平洋クロマグロが「軽度の懸念」から「絶滅危惧」に引き上げられました。
マグロが食べられなくなる
スーパーで売っているマグロの刺身などの表示に「養殖」とあると思います。
「ちゃんと「養殖」が出来てるのなら資源も減らないことだし、問題無いのでは? 」
と考えがちですが、事はそう簡単には進みません。
実は「養殖」モノのマグロ、そのほとんどが「完全な養殖」(後述)ではなくて「蓄養」という方法で育てられたマグロだからです。
蓄養(ちくよう)
捕獲したマグロやウナギの幼魚、アワビ・伊勢エビなどを生け簀で育てること。大きくして高価で販売する目的や生きたまま販売する目的で行われる。(デジタル大辞泉)
海で天然のマグロの若魚や成魚を生きたまま捕らえ、生け簀でたくさんのエサを与えて大きく太るように飼育する、という方法が「蓄養」です。
広大な海と比べると生け簀は狭い(直径約50m)ため、運動量が少なくなって当然、その身も柔らかくなって大量のエサが与えられることで脂身(トロ)が増える、という構図です。
天然モノでは約1~2割しかないトロの部分が、約2~4割に増えるそうです。
要するに、「蓄養」として飼育するためのマグロを海から獲ってくるという点において本来のマグロ漁とまったく同じで、天然資源を活用・利用していることに変わりはないということです。
そもそもはマグロの好漁場である地中海で「産卵後の脂の薄いマグロ(やせマグロ)を太らせて売る」という形で始められた「蓄養」ながら、近年では価格面においての供給競争が激しくなって漁獲量が増加、挙げ句の果てには小さい未成魚の捕獲さえも行なわれるようになっています。
まあ、レッドリストに載って当たり前ですね‥。
加えて、そのエサの問題。
蓄養マグロの体重を1キロ増やすためにエサとなるイワシなどの小魚が10~20キロも必要になるといわれており、また、その海域には生息していない魚を安価で買い入れてエサとして与えている例もあります。
これらの行為が生態系を崩してしまうのではないかと危惧されています。
マグロの「完全養殖」に成功
養殖(ようしょく)
魚・貝・海藻などを人工的に飼育・繁殖させること、またはその技術。(デジタル大辞泉)
本来、天然の稚魚(卵からかえったばかりの魚)を生簀で育てたものが「養殖マグロ」。
日本農林規格(JAS規格)によってエサを与えて育てた水産物にはすべて「養殖」の表記をするよう義務付けられているので、「蓄養マグロ」も「養殖マグロ」も同じ「養殖マグロ」という表記になっています。
これに対して「完全養殖マグロ」とは、養殖施設内で人工孵化した親から生まれたマグロのことで、枯渇が懸念されている資源としての天然マグロには一切影響がありません。
2002年6月、世界で初めて近畿大学水産研究所がクロマグロの「完全養殖」に成功しました。
(画像出典 : 近畿大学水産研究所)
「完全養殖」の意義
「完全養殖」が持つ最大のメリットは、何といっても卵や稚魚などの捕獲が一切不要となるため、天然資源に手をつけることをせずに済む、ということにあります。
また、上記の図からも見て取れるように、卵の段階からふ化、稚魚~成魚、そしてまた産卵という成育段階の全てを管理できるため、これまでのような運に頼った「大漁」「不作」ということはなくなって計画的に生産・収穫・供給することが可能となります。
加えて、人工飼育であることから、その生産履歴(トレーサビリティ)の面においてもメリットが大きく、「一体どのような環境でどんなエサを食べて育ったのか?」等の情報を全て把握することができます。(「牛肉」で考えれば分かりやすいですね。例えば、生産履歴検索|佐賀牛)
「完全養殖マグロ」の現状と未来
2002年に近畿大学水産研究所が成功した「完全養殖マグロ」は2004年の初出荷を経て現在、近畿大学の関連会社であるベンチャー企業「アーマリン近大」が「近大マグロ」として販売、すでに世間に流通しています。
「近大マグロ」を食べてみたい方はこちらをクリック。
(株)アーマリン近大 主な販売店舗
2010年、大手水産企業であるマルハニチロが民間企業として初めてクロマグロの「完全養殖」に成功。
2013年には事業としての大量生産に目処をつけ、2015年6月に商業出荷を開始しました。
また、日本水産(ニッスイ)も「喜鮪(きつな)」というブランド名で販売を開始しています。
産卵からふ化、生育までのサイクルを成功させたマグロの「完全養殖」は、日本では商業化の波に乗り始めてはいるものの、その規模においてはまだまだで、世界的な普及となれば全然、という状況です。
世界中での寿司ブームの広がりもあって、いよいよ天然資源の枯渇は進んでいます。
マグロが大好きな私としては、無くなってもらっては困ります‥。
「完全養殖」のマグロに大いに期待し、できる限り協力していこうと固く誓ったのでありました。
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