「ハインリッヒの法則」って知ってますか? 「ヒヤリ・ハット」は??

今や業種を問わず、「まともな工場」においては必ず「ヒヤリ・ハット」についてのポスター等の掲示、及び従業員からの「報告書」の提出という対応が取られています。

これは、もはや「常識」。

なので、もしも貴方が「工場」にお勤めで、「ハインリッヒの法則」はともかく、「ヒヤリ・ハット」というキーワードすら知らないという状況にあるならばその職場、「相当にヤバい‥」と考えておいた方が無難だと思われます。

ヒヤリ・ハット」とは?

「ヒヤリ・ハット」とは文字通り、「突発的なミスや出来事が起きた際、「ヒヤリ」としたり「ハッと」したりすること」です。

たまたま重大な災害や事故には至らなかったことから「危なかった‥」「あー良かった‥」程度で済まされて見過ごされ、その後もつい忘れがちになってしまうことが多いものの「もしかすると事故にまで発展していてもおかしくなかった、その一歩手前の各種事例のこと」を言います。

実際事故にまで至った背景には、実に多くの「ヒヤリ・ハット」の事例が潜んでおり、それらを収集・分析して再発防止策を考え、その情報を共有することによって重大な災害や事故の発生を未然に防ごうという取り組みが成されています。

もとは「労働」「安全」「衛生」の分野で生まれた概念(参考 : 「労働安全衛生法」)で、「事故」=「アクシデント」に対して、その原因となった「事件」=「インシデント」と呼ばれることもあります。

「ヒヤリ・ハット」の事例

印象として、「ヒヤリ・ハット」は(冒頭の画像にもあるように)建築現場製造工場での話題ように思われる方もいるかもしれませんが、医療・介護事務販売‥等々、その分野を問わず、どこにでも、究極、日常生活を送る家庭内においても「ヒヤリ・ハット」の事例は存在します。

「重大な事故に発展していたかもしれない出来事」。

振り返ってみてください。身に覚えはありませんか?

つまるところ「想像力」の勝負ってことです。

この記事で各分野における「ヒヤリ・ハット」の具体例を1つ1つ取り上げてのご紹介は、その膨大な数からしてもあまりにも非現実的ですので、省略‥。

よって、皆さんそれぞれのお仕事における具体的な事例についてはご自分で調べていただくとして、その手掛かりとして厚生労働省が「ヒヤリ・ハット」の事例をイラスト付きで(珍しく上手く、分かりやすく)まとめてくれていますので、ご紹介しておきます。

厚生労働省 – ヒヤリ・ハット事例 – 

「ハインリッヒの法則」とは?

前述の通り、言ってしまえば「ヒヤリ・ハット」などは、あくまでも日々の作業においてのほんの軽微な単純ミスでしかありません。

こんなミスなどはいつでも、どこでも誰にでも起きる得ることですよね。
日常「おー‥ヤバかった‥」「助かった‥」で簡単に済まされている事象。
もしもこんな程度のことで上司(を含めた第三者)から、いちいち、毎度毎度、その1つ1つについて突っ込まれたりしたらと考えると‥ホント息苦しい‥。

でも実はこれってたまたま運良く偶然にも「事故に至らなかっただけ」なのです。

実際に起きた重大な事故について調べてみたところ、「1件」「重傷」事故の事案、その背景には「29件」「軽傷」を伴った災害が起こっていた。

更に辿ってみると「300件」もの「ヒヤリ・ハット」の事例、危うく大惨事に繋がるなる事故に発展しているかもしれなかった「傷害のない災害」が存在していた。

アメリカの損害保険会社で技術・調査部の副部長をしていたハインリッヒ (Herbert William Heinrich)が、とある工場で発生した「5000件」あまりの「労働災害」を統計学的に調べて計算して導き出し、1929年に発表された論文にある「1:29:300」という比率、これが「ハインリッヒの法則」と呼ばれるものです。

加えて約「75,000件」もの事例の分析で、【労働災害のうち全体の98%が「予防可能」である】こと、重大事故の発生の背景には数1000件もの「不安全行動」「不安全状態」が存在おり【「不安全行動」は「不安全状態」の約9倍の頻度で出現している】こと、を明らかにしています。

「不安全行動」「不安全状態」とは?

厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」において、以下の「不安全行動」の類型12項目、「不安全状態」の8項目が挙げられています。

不安全行動
(労働者自身によるもの)
不安全状態
(機械や物・状況によるもの)
防護・安全装置を無効にする物自体の欠陥
安全措置の不履行防護措置・安全装置の欠陥
不安全な状態を放置物の置き方、作業場所の欠陥
危険な状態を作る保護具・服装等の欠陥
機械・装置等の指定外の使用作業環境の欠陥
運転中の機械・装置等の掃除、注油、修理、点検等部外的・自然的不安全な状態
保護具、服装の欠陥作業方法の欠陥
危険場所への接近その他
その他の不安全な行為
運転の失敗(乗物)
誤った動作
その他

労働災害の防止

つまり、【「不安全行動」は「不安全状態」の約9倍の頻度で出現】ということは、いくら労働環境が整備されていようとも労働者自身の意識が低ければ、その【98%が「予防可能」】であるはずの労働災害は発生してしまうということです。

ついつい手間や労力、時間やコストを省くことを優先してしまって、

「これくらい大丈夫」
「面倒くさい」
「みんなやっている」
「(効率化には)仕方がない」
「長年やってきた」
「まさか自分が」

等々。

様々な言い訳をもってして「本来あるべき姿」から外れた安易な行動が取られることによって、結果、労働災害に発展してしまうということです。

まとめ。

いかなる不祥事・重大事故も決してたまたま偶発的に発生したものではなく、それ以前に必ず小さな予兆 =「ヒヤリ・ハット」が存在しているため、これらを見逃さず、それぞれ細やかに適切に対処していくことで労働災害を未然に防ぐ事ができるということです。


「ハインリッヒの法則」はあらゆる「安全管理の基礎」と考えられており、もはや単に「労働災害」のみに留まらず、「人為的ミス(ヒューマンエラー)による災害」を検証する上でも非常に重要な法則となっています。

その後も「ハインリッヒの法則」に基づいた安全管理の分野の研究が進み、より多くの事例を分析した新たな結果が導き出されています。


<バードの法則>
1969年、米国のフランク・バード(Frank E. Bird Jr.)が、アメリカの21業種297社「1,753,489件」のデータから、

「重大事故:軽傷事故:物損事故:ニアミス」=「1:10:30:600」

という比を導き出した。

<タイ=ピアソンの結果>
1974年・1975年にイギリスの保険会社のデータ「約100万件」からタイ(Tye)・ピアソン(Pearson)によって、

「重大事故:軽中傷事故:応急処置を施した事故:物損事故:ニアミス=1:3:50:80:400」

との比が導き出された。


これらは現在の「保険料率表」の根拠となっています。
(※比率は、業種や時代、国によって変動)

いずれにせよその根源にあるのは「ハインリッヒの法則」であり、1931年に書籍として初版が発行された「Industrial Accident Prevention – A Scientific Approach(直訳:「産業労働者の事故防止 – 科学的な取り組み方)」は「災害防止のバイブル」となり、ハインリッヒは「災害防止のグランドファーザー(grandfather = 祖父)」と呼ばれるようになりました。

冒頭に述べた、”「工場勤務」なのに「ヒヤリ・ハット」というキーワードも知らないなら「かなりヤバい」”という意味、お分かり頂けたでしょうか。

貴方の職場、大丈夫ですか‥?

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